白桜会のブログ

‟明るく楽しく元気よく”

新春楽苦語「ぞうに」  遠藤先生

「パパ。おはよう。おめでとうございます。これからもよろしく」「ああ。きみもぶじに大みそかを生きぬいたんだね。ぼくもきみのたのみどうり、あと、十二年と二百六十九日生きてあげよう」「なんで、そんな半端な日数なの」「だって、きみはよろしくと言ったじゃないか。よろしくといえば四六四九日だ。これを三六五で割ると、ちょうど、十二年と、二六九日の計算になる」「利息の計算してるんじゃないのよ。パパには、あと、二十年は生きてもらわなきゃ」「おいおい。それまでにたそがれてしまうよ」「いいのよ。たそがれたって。年金が入ってくるんだから。うちのむすこ、いま五つでしょう。パパが、あと二十年生きて二十五歳。大学を出て、やっと社会人。そうなったら、すぐ乗りかえるから、安心して先に行っていいわよ」「まるで電車だね。おれの乗る駅は、あと二十か。ときどき居眠りしながら、なんとか行きつかなきゃ」「パパ、おはよう。おめでとうございます。今朝のパパはなんか若返ったみたいだよ。木村拓也にそっくりだよ」「きのう、あいつのドラマを見過ぎたからだな。でも三十のパパがキムタクにみえるなんて、おれのむすこといいながら、うれしいことを言ってくれるな」「パパお世辞言ってあげたんだから、はやくお年玉ちょうだい」「なんだ。お世辞か。しかし世のなか、お世辞で生きてるようなもんだからな。いまからトレーニングしとくのもいいだろう。はい。お年玉だよ。見出しでわるいけど」「ええっ。一万円のこんな厚い束!パパ。どうしたの。年末宝くじの一等に当たったの。それともサラ金から利息を承知で借りたの」「かわいいことを言うなあ。安心しなよ。一番上はほんものの一万円札だけど、二枚目からは、新聞紙を切って重ねてあるんだから」「なんだ。きのうのキムタクのドラマを見て、まねしたんだね」「まあね。うすいよりは厚い方がいいだろう」「うん。でもにせ物よりほん物の方が、もっといい」「まあまあ。文句を言わないで、だいじに使いなさい。パパの三か月分のおこづかいに千円足してあるんだから」「じゃあ、パパはぼくのために、三ヶ月も、おこづかいをためておいくれたんだね」「まあね。アルバイトもしたけどね」「なにをしたの」「チンージャラジャラって、チューリップを咲かせる労働だよ」「そうか。やっぱりね。ぼくのお年玉を、パチンコでかせぐなんて、転がってもただでは落ちないパパだもんね」「おかあさんにはないしょだよ。見つかるとほっぺをパチンとたたかれて、あたまをコッンと打たれるんだから」「あなた。おぞうにができたわよ」「そうか。よし。坊や。さっそくたべて、ことし一年分の元気をつけよう」「パパ。おぞうにって、いくつたべるの」「そうだね。歳の数だけだね」「ええっ。ぼくは五つ。パパは三十たべるの」「そうゆうことになるね」「パパおぞうにをいっぺんに三十もたべたら死んじゃうよ。もうお年玉をもらったからどっちでもいいけれど、パパ、もし、死ぬんだったら、ぼくが三十(みと)ってあげるね」[あなたたち、なんのお話してるの」「元旦にたべるおぞうにのおもちの数のことだよ。いま、歳の数だけだよって、坊やに教えてたところだよ」「あなた。それって、節分のお豆の数でしょう。八十の人が、いっぺんに八十もお餅をたべてごらんなさい。見てて、気もちわるくなるでしょう」「あっはっは。そうだったか。節分と正月とをまちがえるなんて、パパも気が早いな。さあ、では、仲よくいただきましょう」「パパこれ、とり肉でしょう」「そうだよ。あっ、坊やの方が、二つも余計に入ってる。パパの方にもらおう」「パパは肥満性症候群なのに、まだ、ぼくのとり肉を、取りにくくるの」「ふたりともやめなさい。みっともない。とり肉をとりっこするなんて」「いやあ。おいしいね。お日さままで欲しいがってるね。はつ春や雑煮祝いの親子かな。おやおや。もう、ないの。坊や。お玉杓子で、お鍋をかき回しちゃだめだよ。それじゃ、なくなるのはあたり前だよ」「だって、ぞうには、家族でたのしく話し合いながら、そうぞうしくたべるから、ぞう煮って言うんだよ」「うそを言いなさい。ぞうにはね。お餅を、鳥やお魚の肉でだしをとって、栄養のバランスをとるため、いろんな野菜をに入れて煮るからぞう煮というんだよ。でも、坊やが、実をみんなたべちゃって、お汁しかのこってないんじゃしようがない。きのうの残りのごはんを入れて、あっためてごらん。けっこう、すいっとさっぱりした味になるものだよ」「ほんとうですか」「うん。それを、雑粋(炊)というんだ」   (おしまい)

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これは卓球クラブ、遠藤俊夫先生2007年の作です。
ご本人の了解を得てアップしました。今後も書いてくれるそうです。
遠藤氏は、東京の有名な小、中学校で教鞭をとられ「小説現代」の新人賞を受賞されたそうです。
88歳の今もなお元気に執筆活動をされております。

 桜会に入って長生きしよう!

遠藤先生の勇姿 2022/11/11