白桜会の作家が落語みたいですがと、投稿して頂きました。
作 エンチャン亭ボロキチ
③シンデレラ
「兄さん 冬ってどうして寒いの」「北風がフーユー(お前は誰だ)って 吹く からさ 」
「夏ってどうして暑いの 」「セミが木に止まって アー、ツイ、アー、ツイって鳴く からさ」「 秋は?」「木の葉がまるで違った色になって みんなアキれるからだよ」
「春は?」「木の葉や草の葉がハハハ、 ルンルンルンって喜んで伸びてくるからだよ」
「 じゃあ 電柱って何で高いの」「セミを止まりやすくするためさ」「 セミのお宿 なのになんで電柱って言うの」「 蝉がデーンと飛んできて チュンと止まるからさ」「 兄さん ポストって何で赤いの」「手紙を入れる時 手紙がベロみたいにポストの口に入ってくだろ。アッカンベーするみたいだろう 。これはアッカンベーする入れ物ですよって いうわけで赤いのさ 」
「お兄ちゃんシンデレラって 知ってる?」「知ってるよ。 家族はみんな貴族のダンスパーティーに行ってる間、ストーブの灰を掃除して 煙突から落ちてきた灰に あっという間に乗っかられて 花の命を散らした娘の話でしょう」「 あらそんな話もあったのね」「ありましたよ。 その女の子は人間が死ぬ時 たいてい残していく 歌まで作りましたよ」「 どんな歌?」
「 この世にはもう用がありません。香の 煙と はい さようなら」「どっかで聞いたような歌だわね」「はっはっは。十返舎一九の辞世の歌をパクっただけさ 。お前の顔を見てたら急に辞世の歌を思いついた」「 何でなの」「 だってお前の顔が 絶世の おかめなんだもの」「 いいわよ 絶世の おかめ だって。何よ。 自分だって絶世の ひょっとこのくせに」「 わかったわかりました 。それでお前の知ってる シンデレラってどんな話だい」
「私のはね エー昔々、ある家に拾われてきた女の子がありました」「女の子かい? 犬の子じゃないのか」「 いいのよ、 女の子なのよ 。でも犬みたいに扱われたの。毎日 お掃除 洗濯 ゴミ拾い灰かき、 つまみ食い」「おいおい つまみ食いは役得じゃないか」「 違うわよ 腹違いのお姉さん達がしてるのを、黙って見てる役なの」「かわいそうに。 俺ならそういう時 黙って げんこつを出すな 」「叩いたりしたら大変よ 追い出されちゃうのよ」「 叩きやしないよ。 わたし腹がグーですっていう意味だよ」「そんなこと言ったって誰も同情してくれなかったのよ」
「 どうしようもない人生だね 。でも子供の時 苦労させとくと大きくなって 役に立つものだよ」「 その苦労が役に立ったかどうか知らないけど、みんながダンスパーティーに出かけちゃった後、どうして私だけがこんな目に合わなくちゃならないのって泣いていたら 、ひょっこり おばあさんが現れたのよ 」「おばあさんか。俺だったら美人の方がいいな 」「だめよ 美人だったら魔法が使えないもの」「 そんなことないよ。 この世の美人ってみんな魔法を使って男を騙すよ」 「そういう悪い魔法じゃないの 。泣いてるシンデレラを見て、パーティーに行きたいんだろ。 着るものと馬車を用意してあげるから早く行っといで 。ただし 12時までに パーティーを出てこなければだめだよ」「 門限があるのかあ。 今の女の子じゃだめだな 」
「それで喜んで馬車に乗って行ったのよ。 そしたら来ていた王子様がね 。綺麗な姿になったシンデレラを見てうっとりしたの」「魂が空にトンデレアか」「もっと綺麗にさせようとガラスの靴を履かせたの」「 ガラスの靴ってかわいそうに。 シンデレラの足にひびが入っちゃうだろうに 」「ええっ!ガラスの靴にひびが入るのは仕方ないけど、なんで足にひびが入んなきゃいけないの」「当たり前だろ。 足の肉はガラスより柔らかいんだよ。 柔らかい方が硬い方より先に割れたら、豆腐の角に頭ぶつけたって死ぬよ」「 そりゃそうだけど。もしガラスの靴が先に言われたらどうするの」「 俺なら謝るね 。これはどうも ガラス さん。初めてお会いした仲なのに もうひびが入ったのね。 人生ってたいていそんなものなのね。 一緒になって30年も 40年も仲良くしてるなんて、たいてい 両方ともぬいだりはいたりしてるのよね。 でも踊りの終わるまで 割れないでいてね。 何も言わないでちょうだい。 ただ黙って踊りましょう。 だってお別れは辛い。ダンスの後にしてね 」「それは 倍償千恵子の歌だよ 。パクリだよ」
「 いいのよ バレたら賠償すればいいんだから。 それで 12時まで夢中で王子様と踊ってたの。 塔の鐘がなったとたん。 はっと気がついたシンデレラは止める 王子様を振り切って 会場からトンデレラ したの。 その時 ガラスの靴を片っぽ 。置いてきたのよ」
「 どうせ捨てられちゃうんだ 。後で行って靴を片方残して行きました。 返してください 。もう捨てちゃったからないよ。 そこで、ケツ じゃなかったスカートをまくり、 どうしてくれるんだい。ガラスの靴なんかそんじょそこらにあるもんじゃないんだよ。 同じものを弁償しておくれって カツアゲ する 。俺ならするなあ」「シンデレラがそんなことするもんですか。 かぼちゃになっちゃった 馬車が から飛び降りて、元の汚い服着てストーブの灰の掃除してたわ 」
「どうして家の人たちは気がつかなかったんだ。 周りの灰が アリバイ だって言うのか。 そんな 拭けば飛ぶようなものが、何の証拠になるんだ」「刑事さんみたいに怒鳴らないでよ。 家の人にはシンデレラが あまり綺麗になってきたからわからなかっただけよ。 次の日 王子様のお使い が町中の娘を集めて、残してったガラスの靴を履かせたの。誰も履けなかったけど、シンデレラだけはけたので 、王子様がお嫁さんにしたいっていう おめでたい話よ」
「なんでみんな、はけなかったんだ」「知らないわそんなこと。書いてなかったもん」
「 多分 足が大きすぎたんだ。 バカの大足 だったんだろう」「 じゃあ 小さい足は?」
「マヌケの小足 って言うけどな」 「じゃあ私の足は?」「大根の素脚」「 言ったわねこの山 ゴボウ」「 まあまあ 振り上げたげんこを下ろしなさい。 大根たって色々だよ。 練馬大根は太いけど三浦大根はすんなりしてるよ」「 私の は?」「 見て言った後で恨まれるのが厭だから 、三浦大根にしよう」「よし。 それなら許してあげる」「よかった 簡単にげんこつをおろしたね」「 当たり前よ。あんな みたいな ゴボウ 足はおろせないけど、私のような大根足ならすぐ、おろせるもの」
終わり
④タクシー
「おーい タクシーさん」「 私はタクシーではありません 。近藤又郎という運転手です」「 今度また会おうか あ。いい名だね 。乗せてもらいましょうか」「 どうぞどうぞ。 タクシーと 司会者は乗せるのが商売でございます」「 ではドアを開けてと 。後ろの座席の左側に座らせてもらいますよ。 ここは車がぶつかった時 一番被害が少ないそうだから」「 はいはい 私も助かります。 この頃のお客さんは 物騒な人が多くて困ります。 こないだ も わざわざ私の真後ろにじっと座った人がいましたので、 おかしいなと思いました。 はたして 言われた場所でドアを開けたら、 表には後から出てやる。実は 持ち金が1円もない。料金を貸せと言うから 困ったなあ。 サツマノカミをのせてしまったのかと思いました。「何だい、サツマノカミつうのは」「ただ乗り のことで」「 なるほど金は家から持って来させればいいじゃないか」「 それが高速道路の真ん中 なんで」「声を出すとか何とかすればいいじゃないか」「 後ろから首ったまにナイフを突きつけられて まして、一 声 出せばブッスリ。 ナイフの代わりに財布はありませんかと 言いましたら、そんなものがあったらまだ飲んでらあ。「 文無しになったからお前のタクシーに乗ってやったんだ。 これも運命と諦めろ。 普段 知ってる 道を知らん顔で遠回りして余計な 料金 取ってるんだろう。 たまには 罪滅ぼしに客の一人ぐらい ただで乗せてみろ。馬券を買えば 大穴。 宝くじ なら 大当たりが来るぞ」「 無責任な客だな」「 頭へ来ましたから、あなたが ナイフなら私はただで客を乗せる気はナイスって 言いました 」「それでよく 生きてるね」「ええ、 言った途端 後ろのお客さんが笑い出しましてね。 いや そのセリフ その気合い 気に入った。 実は売れない噺家なんだが このところ ネタに詰まって、タクシー強盗の真似でもしたらなんか出てくるかもしれねえと試してみた。はたしてナイスな答えが返ってきてくれた。 これで話を一つ作れる。もう用が済んだから ここで降りる。 料金の他にネタをくれた 褒美に1万円 置いていくよ って、降りて他のタクシーに乗って行っちゃいました」
「なんだ 芝居か。 それにしても怖い思いをしたろう。 でもまあこの話が高座に乗ればあの客もまたこの車に乗ってくれるだろう。当たれば もう一度 チップぐらい出すかもしれません。 何でも物事はいい方へ考えた方が気が楽になります」「 なあるほど。 お前さんはなかなかの人間だね 。どうだね 客を乗せる時 バックミラーで顔を見てどんな商売の人か分かりますか 」「そこまでは分かりません 正確じゃありませんが、どうにか性格が想像できるくらいです 」
「私なんかどうですか」「 さっきから見てると まゆは下がりっぱなし、口は開きっぱなし よだれを二度ばかりふきました。 まあ 極楽とんぼの仲間でしょうか」「 えらいね。 私こう見えても 息子に会社を継がせて自分は時々顔を出す 会長 なんだ。言ってみれば極楽とんぼ だ 。よく当てたねえ」「 だってあなたが車にお乗りになった時 内ポケットに万札が束になって詰まってましたから」「すごいね。人相見じゃなくて 様子見の名人だね。 じゃあ私が今 ポケットの中で握っているものを当ててごらん。 当たったら1万円あげる」「1万円はこないだ 売れない噺家からいただきましたから入りません。 ただ 握ってらっしゃるものがなんだか お答えだけします」「ほう、なんですか」「 普段行きつけのバーのマッチですね」「げっ。あんたあたしのポケット すけて見えるの」「 見えやしません。 ただ ドアをくぐって来られた時、ふとポケットへ 口へ突っ込んでニアッとしたきり、お離しになりません。 それに手を動かすたび、シュッシュッとマッチの軸のすれる音が聞こえます。
その粋な身なりと ハの字眉と鼻の下の長さと、握った切り離さない手つきと、を見れば大抵の人は ああ、マッチだなと気がつくでしょうよ」「 えらい! あんたのような運転手は初めてだ。 制帽 かぶった シャーロックホームズだ 。あんたのような人でも感心されるお客さんって乗せたことがありますか」「 ありますよ」「 どんな人だね 」「乗って座ったきり目つぶったままなので、 どちらへって聞きましたら 静かに 天国 」「それはまた遠いね 。道もわからないでしょう」「ええ、 ですから私もこの年でまだ人生西も東も分かりません。 天国までお乗せしたいが一緒に行くわけにも参りません」「 相手は何て言いましたか 」「ハッハッハと笑いました。 それからおもむろに 仕方ない 火葬場の前で おろしてくれたまえと言いました」「 なるほど 途中下車か、タクシーってのはいろんな人が乗るんだね。 幽霊なんか乗せたことありますか 」「ありますよ 昨日かな」「 ええっ、きのう、どこに」「お客さんの座ってるところです」
「ゲッ、 寒気がしてきた。 何でまた幽霊なんか乗せたんだい 」「別に知って乗せたわけじゃありません。 昨日はご存知の通り雨降りで、客には不自由しないはずだ。 それも病院の前は一番割がいいと思って、ここから先のちょっとした病院を通りかかりました。 見ると赤い着物の娘さんが傘もささず手を振っております」「 よほど急な用事だったんだな」「 私もそう思いましてね 車を寄せて ドアを開けますと びしょ濡れのまま乗り込んできました」「 シートがダメになっちゃうじゃないか」「 まあ、 困りますが 私は年頃の娘さんで、ひどく 顔色が悪い。 これは乗せなければ 後で天罰が下ると思って、そのまま ドアを閉めて走り出しました」
「 娘さん 何か言ったかね」「 はい それが家までお願いしますと言ったきり 、下を向いたままです。 よほど 加減が悪いと思い バックミラーを覗きましたが 姿が映りません」
「ええっ、 鏡に姿が映らない 透明人間 かね 」「私もおかしいと思いましてね 。振り返ってみますと、うつむいたまんま 目だけ私を見つめております」「ひやー、 驚いたでしょう 」
「驚きはしましたがね 。いちいち客種にたまげていては商売が勤まりません。 どちらまで?と尋ねました」「 何と答えたの?」「 小さな声で(三途の川まで)と言うんですよ」「 どこにあるのか知ってるの?」「 知るわけがないでしょう。ホエアイズ、ジスプレイス? それはどこにあるんですか と聞きました」「 なんて言ったんだい」「このハイウェイをどこまでも行くと、やがて坂道を降りて トンネルへ入ります。 そこも下っていると やがて地底へ達します 。そこに黒い水をたたえた 川が流れています。 そこが三途の川です」「げつ!そんな 地の果てアルジェリアという演歌の一節があるが、 そこは地の果て 三途の川 よ。それを渡ればあの世へ着くの なんて言う 演歌は聞いたことがない」「 その通りだ。あの世へ案内 タクシーと SN なんかで 評判を取れば流行るんじゃないの 」「だめだと思いますね 。死人を乗っけて三途の川の渡し船 料金所まで頼む なんて言われたら、普通の運ちゃんは断りますよ」「 君は何か 役得があると思って乗せたんじゃないの 」「それは期待しましたよ。 あの世へ行く人がお金なんか持ってたって役に立たないんだから、有り金全部渡してくれるんじゃないかってね」 「渡してくれたかい?」「 それがそれがね、 見当外れの 大違い。 三途の川の船着場へ着いて料金を請求しました」「 チップをはずんで多めにくれたんだろう?」「 どっこい、 それがね。 ゴールデンキャッシュカード なんですよ。 お客さん それは困ります。お客さんだってご存知の通り これは本人でないと使えません。 なんなら 三度の川の渡し守のおばあさんに支払ってくださいよ」「 支払ったのかい 」「それがね渡し守のおばあさんは真っ赤になって怒鳴りました」「 バカ者! これから地獄へ行くものが何で三途の川をキャッシュカードで渡るんだ! それはこの世で しか使えないものを知っててやってるんだな。 そんな不届き者をあの世へ送れるもんか。 早く、もとの世へ戻れ 。そしてそのカードでやりたい放題をやってこい。 使い切って文無しになったら 渡してやる 。地獄はカードも現金も使えないんだからな。 それも知らない者には地獄へ行く資格がないんだ。愚か者め目が 」「それでどうしたんだい」
「 仕方なく 2人で この世へ戻り キャッシュカードで、飲む打つ買う、 何しろ 億単位のミリオンカードですからね 。1年やそこらで底をつくわけがない」 「でもどんなことにも終わりが来る、最後はとうとう文無しになっちゃったんだろう」「 当たり‼ それでもう一度 三途の川の渡し場へ行こうとしたらお客が言うんですよ」「 何と言った?」「 もう一度この世へ戻ったら初めてこの世がなんと面白いところか 気がついた。 これから俺が街角 ミュージシャンになって通る人たちを楽しませてやる」「 どんなことをするんだい」「 その人が踊りながら歌うんですよ。『 お役人でも、おいらでもお風呂入る時は 皆、裸 かみしも 脱いで袴を捨てりゃ 歌の1つも浮かれ出る』 そして歌いました 『土佐の高知のはりまや橋で 坊さんかんざし買うを見た』坊さんがかんざしを買うのは、好きな彼女ができて相手に喜んでもらおうとかんざしを買うんですな」「 なるほど人間というやつは賢くないが 愛嬌のある生き物なんだなあ。 それで その後はどう歌ったんだい」「 それがね エンディングに『狭いながらも楽しい我が家 愛の光の差すところ。 恋しい 屋根 こそ私の青空』 と歌ってしめるんですよ」「 それって フランクシナトラの歌った『 マイブルーヘブン』のパクリじゃないか」「 そりや、その通りですがね。 せち辛い世の中に ノー天気な歌が意外に流行りましてね。 ゴールデンキャッシュカードを使い果たした 代わり エンターテイナーとして歴史に残る名声をのこしたんです」「 その人は何と ネーミングしたんだい」「エノケン。 自分の名前、親からもらった 榎本健一という名を略したんですよ。 今だって 80歳 90歳になる人は知ってますよ。浅草ロック座で満員の客の前で歌ったこの歌が 日本中にはやりましてね。 続きを作る人が現れました」「なんて 続くんだい」「 そりゃ 続けようと思えば いくらでもできますよ。 例えば ですね 『 お医者様でもおいら でも、お風呂入る時は 皆、裸白衣を脱いでパンツを捨てりゃ 歌の1つも浮かび出る』 チョイナチョイナ ときましてね。「 お客様でも草津の湯でも恋の病は治しゃせぬ。 そこで一声 張り上げて 『狭いながらも・・・』といけばそんな 続き なんか無限にできるじゃありませんか」「 なるほどそういうことだな。人間というものは ユーモアを持ってるうちは、 自分にも相手にも大概のことは許し合って生きていけるっつうわけだ。 おいおい 君。ユーモアっつうのは、どこから来てどこへ行くんだい」「ユーモアが言っているんじゃありませんか 。ユー から来て モア、スマイルを残して 世界中にハピネスを残してモアの中へ消えていくんですな」
終わり