白桜会のブログ

‟明るく楽しく元気よく”

短編投稿…「バラ」「公園のベンチ 」

物書きの会員から投稿がありました。面白いのでアップします。

①「バラ」                   作  エンチャン亭ボロキチ

 マンションの草むらの一角が金網で仕切ってありまして その金網の目の間からバラの花が一輪 顔を出しております。 いつもそこを通って出入りするある人。 今日も変わらず 咲いているのに目を止めました。

「やあ、かわいそうに。またそこの目の間からのぞいている。 たまには 他の 穴に茎を向けて別のとこから顔出せば チットは違う景色が見えるだろう。それもしないで たった一つの穴にしがみついている。 こういう花はバラと言わずズボラと言った方が良さそうだ」通り過ぎようとするのをバラが止めました。

「お待ちなさいよ 私がいつでも同じ穴から花を咲かせとるから ズボラっていうのね それじゃあ 25年 そのマンションの同じ部屋借りて住んでいる あんたは何なのさ」

「 マンションの住人だよ」

「 25年も一人きりで同じ部屋に住んでる人は住人じゃないわよ。 重罪人だわよ」

「 俺は何も悪いことをした覚えがないぞ」

「 だって外へどこも 行きどころがなくて一生 アナグラ みたいなこのマンションの一室で息を引き取る気なんでしょう。無期徒刑囚といっしょじゃないの」

「 そりやお前といっしょじゃないか。 それにお前は俺みたいに バーゲン 行ったり スーパーに行って、あらゆる 試食品 食ってきたり 自由ができず いつも網格子から一輪だけ 顔出しているバラならバラ らしく 何でもっと バラバラと咲かないんだ 」

「あんた雑草のなかにやっと 根っこ 張って、硬い土が水吸って、やっと花咲かせてるわたしに何でそんな無理いうの。こっちへ来なさいよ。トゲ刺してやるから」

「そうトゲトゲしいこと言うな。おれぐらいだぜ。通りすがりいつもお前に目を止めて、ああ、きれいだな。野中のバラつうのは誰でも知ってるが、網中のバラつうのはおれぐらいしか知らないだろうよ」

「知ってるのは私がいつも同じ網の目から顔を出しているの と 一輪きり だってことくらいでしょうよ。 一輪きりで何が悪いのよ。 あんただって25年1人きりじゃないの」「わかったわかった。 しかし 金網の目から首出した一輪きりのバラの花てえのも風情があるな 。荒野の バラじゃなくて 孤独のバラだな 」

「孤独のバラで結構よ 綺麗なバラはトゲがあるってね。毒だってあるのよ」
「 トゲだけでなく毒まであるのか」

「 ありますよ 猫が通れば足の裏にトゲを刺す。 洗濯物が風で落ちてくればトゲで 裂いて バラバラにする。 あんただって 4階の部屋にいるんでしょう。 10年経ったらそこまで伸びてって 夜、寝てるところを 首しめて 体中を トゲで引き裂いて バラバラにしてやるわ」
「 バラが犯人のバラバラ殺人事件か」

「いいじゃない 引き裂かれた体 だから バラの香りが漂って。血の中に咲くバラの花、ロマンチックだわ」

「おいおい 人の体を引き裂いて ドクドク 血を出す 毒まであると言ってるのか。 だがね 君が俺の部屋まで伸びてくる頃にはもう俺はそこにいないと思うよ」
「どこへ行っちゃうの」
「 空の上だよ」「 ならそこまで伸びて ってバラバラにしてやる」
「 冗談じゃない ジャックと豆の木 じゃあるまいし。 そんなことよりこんな草もからないマンションの草むらなんかに咲いているより、上野辺りのビニールづくりのバラックの青いシートかなんかに ほんのり色を漂わせたら ずいぶん 絵になると思うがな」
「 いやよ。 上野の公園のバラ なんて ゴミだらけでしよう」
「 ここだってチューインガムや 紙屑だらけじゃないか」
「 だからあなたが空へ上ったら私だっていきたいのよ。このよごれた世界から天の風に乗って、 あの青空へ行きたいの 」

「おいおい追っかけてくるのいいが、降りるときはどうするんだい」
「ひとふしごと トゲをバラバラにして一度に落ちてくるわ」
「すげーな、そうなったら 世界中 トゲだらけだ」
「いいでしょう。 心や 気持ちで傷つき合いをしてるより バラのトゲで傷つく方が高級だわ」
「 なるほどね それが君の最後か」
「 そうよ バラバラになって 最後をトゲるのよ」

終わり

②「公園のベンチ 」

公園があります。 ベンチがあります。 桜の木が囲んでます 。ベンチはマンションを建てた時 作られたままで 背もたれの板が所々かけています。 12月の風が吹き付けて桜の葉が1枚 ひょいと ベンチに乗りました。

「こんにちは ベンチさん 寒いね 」「そうかい。俺なんかこんな 古ぼけて 穴だけだから 暑い寒いって感じなくなったよ。 桜が枝だけになったから、ああ 冬なんだなって思うくらいのもんだよ」「 そういえばあちこち板が欠けてるね 。いたいたしいね」「 別に痛くもかゆくもないよ 。形あるものは皆こうなっていくという見本だよ」「今でも誰か座るの」「 うん、座るつうか乗るっつうか。さっきも子供が 砂だらけの運動靴で上を走ってたよ。 ベンチさん ベンチさん 穴だらけのベンチさん とうとう 脚だけが残るのねって歌ったよ」「 それ、ぞうさんの替え歌 だよ。 そんな時どんな気持ちなの」「 『踏まれても踏まれてもなお生き残るベンチかな』っていう感じだね」
「 かわいそうに。可愛がってくれることだってあるでしょう」「 そうだね。 昨日の夜寝てたらね 。座るとこの端が急にあったかくなったから、ああ誰か僕をお風呂に入れてくれてるんだ。幸せだなって目を覚ましたら 猫がおしっこをしてた」「お行儀悪いねえ」「 僕もそう思ったから『おいおい 猫くん ここは便所じゃないよ』って言った」 「猫くん 謝ったかい」「へえ、便所じゃないのか。 俺はまた便池(ベンチ)って言うから小便する池のことかと思ったよって、お尻を振ってから飛んでった」「 まるでセミだね。 親子連れ なんか 座ったりしないの」
「そうだねえ。 もう10年くらいないねえ。 今でも時々 座ってくれるのは 猫ちゃん。 背もたれに 止まって鳴いてくれるのは すずめさん。 君みたいに話かけてくれた落葉くん なんて 初めてだよ」「 かわいそうに冷たくないのかい」「 別に感じないよ。 もう 乾いてるからね」「 じゃあ今日から僕が友達になってあげる 。その代わり 背もたれの隙間に泊まらせてね」「 えっ。こんなボロホテルに泊まってくれるの」「 ボロホテル なんて言うなよ。 僕みたいなさだめ知れない 枯葉には君のように 木づくりで地肌も出ちゃってる ベンチはスイートホテルだよ」「 嬉しいことを言ってくれるなあ。 スイートホテル なんて言わなくていいよ。 家賃 いらないから スイートホーム と思って ずっと住んでくれたまえよ 」「ありがとう。泊めてくれるなら 僕だって お礼 くらいするよ」
その晩 また猫が来ました。 ベンチに飛び乗ってお尻を下げておしっこの穴を開いた時 いきなり木の葉が飛んでって、広がったところを チクリ。

「 いてて。 昨日はただのベンチだったのに今日はトゲが生えてら 。これじゃ ベンチじゃなくてバランチじゃねえか」
慌てて飛んでいきました。
「木の葉くん、 ありがとう。 これでもう 臭くならないし腐るのも防げたよ。 君は本当に優しいね 」「僕のスイートホームにしてくれたんだもの 守るのは当たり前 さ」飛んでくる 木の葉たちを集めて ボロボロのベンチへ 敷き詰めました。「あら木の葉の ベンチなんて素敵ね 座ってみようかしら」「 でも木の葉の上じゃ痛いからどけて 座ろうよ」 木の葉を払ってみると ボロボロ ベンチはトゲだらけ。「 ねえ君 トゲ と木の葉とどっちがいい」「 木の葉がいいわよ。 刺さらないもの」
2人が座ると 木の葉同士が懸命にすり合ってほかほか暖かくなりました。
「 あら木の葉ってチクチクするかと思ったら、意外にあったかいのね 」「それは君と僕が仲良しだから、木の葉だって暖かく感じるんだよ」「 そうか。木の葉のせいじゃなくて 気のせいね」「 そうだそうだ。 今度から毎日 今頃来て座ろうね」
木の葉ベンチといって有名になりました。皆さん 古いものだって助け合えば 役に立つ んですよ。 終わり 

 

桜会の皆さんは多士済々です